Life as Kamino Rui

MtFの私「神野留衣」と、私の現実世界での姿「僕」の二人の日常生活

林間学校から帰ってきて

かなり間が開いてしまいましたね…。
昨日林間学校から帰ってきた、神野留衣です。

4泊5日を新潟県の妙高市にある学校の寮で過ごし、標高2454mの妙高山に登ったりと、まったく運動をしていない私にとっては過酷なスケジュールで、相当疲れてしまいました。
そんな私でも、山頂にたどり着けましたけれどね。
それはひとえに、全員で登っていたからなのでしょう。一人では絶対無理です(よく聞く話だけれど)。

それはさておき…。

そんな忙しい日々の中で、少しの間だったけれど、僕は私のことを考えないでいられました…いや、考えないように努力していたからなのですが。
そうしていないと、泣きだしそうだったから。

そんな話を、林間学校が始まる前に、私を知っている三人にメールでしました。
(泣きだしそうだ、ということを。)
そうしたら、こんな言葉が返ってきました。

「…泣いちゃっていいんじゃない?四泊五日、独りには逃げられないけど、逆に言えば一人にだけはならないんだよ。うちだけはいるから、お願いだから、苦しんでるのは一人だけなんて思わないで!」

この言葉を聞いて、自分は一人じゃないんだな、一緒に考えてくれている人がいるんだな、と感じました。
それまで自分は、何人かの人々に話してきて、支えてもらってきたけれど、状況に変化がなくなった今、きっとみんなの思考の中に私が出てくることはないんだろうな、と考えてしまっていました。
でも、考えていてくれた。

同時に、私が何か動かなきゃ、何も始まらない、ということも言われました。
代わりに打ち明けてもらうこともできるけれど、それじゃあ意味がないんだって。
だけど同時に、もしそれで僕としての立場が危うくなったら、何のためにいままで僕のふりを、キグルミを着ていたのかわからなくなる。

最後に、もっとみんなを信用しなさい!とも書かれていました。
結局考えて疑っていればきりがないんだから、ある程度は思い切らなきゃいけない。

他にもたくさんの言葉がありましたが、それを胸に、私は4泊5日を過ごしていました。

そして、4日目の夜。
その日は、キャンプファイヤーがありました。
先生に関するクイズなど、いくつかのゲームをした後に、フォークダンス(オクラホマミキサー)がありました。
その時、互いの顔もよく見えないような暗闇の中で、近くにいたKさん(先の引用したメールをくれた同級生。というか私も神野=Kさんだけど、違う人です)がこう言いました。
「私と交換する?」
このフォークダンスでは、男子と女子が輪の内側と外側に分かれて、それぞれ男女のペアが変わりながら踊るものなのですが、まあ当然私は男子側で、Kさんは女子…ということで、多分Kさんが気遣って言ってくれたのだと思います。
でも、私は「いいよ。」と否定しました。
だってルールだからしょうがないよ…そんな言葉が頭の中に浮かんだけれど、声には出ませんでした。

そうして、「ふつうに」私は男子側でフォークダンスが始まったのですが、どんどん相手が変わってゆくうちに、あることに気がつきました。
相手が変わる時に、ほんの少し間があるのですが、その時に相手の女子が
「あっ、N君だ。」(N君=僕)
と言って、少し安心したような顔になる人が何人かいたように思えたのです。
なんだか、こうやって書くと自己過信のように思われてしまうかもしれないけれど、本当はみんな、薄々気付いているのではないか?と、東京では見えない星空の下で思いました。

さて、そうしてキャンプファイヤーも終わり、いつもより長い二時間ほどの自由時間がありました。
各部屋での飲食は禁止なので、一階にある、テーブルが食堂のように並んでいるホールという場所で、多くの人は自動販売機で購入したジュースを片手に、カードゲームをしていました。
私も、350ml缶入りの「なっちゃん」オレンジを買って、自分の部屋の人々がトランプで大富豪をしている様子を見に行こうと、そのテーブルへと向かいました。
そして、その途中でKさんを見つけました。
自分は、Kさんの肩をたたいて、こう言いました。
「ルールだからしょうがないよ。」
さっき言えなかった言葉を、なぜか言いました。
そうしたら、Kさんは
「え?ああ、そうだ、部屋の様子、教えてよ」
と言って、目的のテーブルの隣のテーブルに、二人で並んで座りました。

そこで話したのは、部屋の人に打ち明けるかどうかとか、Kさんの部屋で話されていたN君についての話題とか、いろいろ。
その中で、こんな話がありました。
「ほら、こうやって私とN君が話してても、誰も何も言わないでしょ?」
Kさんがそう言ったように、普通だったら男子と女子が一対一で話していたら、周囲の人々がいろいろ言うはずなのに、何も言われなかった。
いや、もしかすると、みんなカードゲームに熱中しているだけなのかもしれないし、そもそもそういうことを、私の学校の人々は気にしないというのもあるかもしれない。
それ以前に、みんな何となく、KさんとN君が、よく分からない不思議な関係であることに気付いているのかもしれない。

そんなことはどうでもいいけれど、とにかくそこで話していて考えたことは、打ち明けなきゃ始まらない、ということ。
だけど、私は打ち明けるのが怖い。
上手くコトバにできない。
誤解されたくない。

でも…今夜打ち明けなきゃ、また長い夏休みの間、変わらない時を過ごすことになるんだ。でも…。

話が終わって、Kさんが席を立って私一人になって、私は机に伏せました。
泣きそうな気持ちになるよりも、さっさと打ち明けてしまえばいいのに…。

ふと顔を上げると、自分の右手に握りしめられた、「なっちゃん」の缶。
そこに描かれた笑顔を見て、私は本当に泣きそうになりました。
弱いなぁ、自分。って。

結局、私は誰にも打ち明けることができませんでした。
そんな…男子ばかりの部屋の中でこんなこと打ち明けたら、空気が凍りついてしまうのではないかって。

それでも、直前まで悩みつつ布団の中で手を握りしめていた私は、連日の疲れに負けて、気が付いたら朝を迎えていました。
声を出してみると、少し風邪気味。
ああ…だめだったんだ。

そんなことを考える暇もなく、私は東京へ帰ってきてしまいました。

一体どうすれば、良いのだろう。

一体どうすれば、伝わるのだろう。

一体何を考えて生きてゆけばいいのだろう。

血管が浮き出て、ごつごつとしてきた自分の腕。
結局何をしていても、今の自分は私じゃないということ。
そしてそれはすぐには変わらないということ。
今まで私が僕として生きてきた時間は消えないし、消したくないということ。
結局私はいつまでも私にはなれない。

理解されないんだよね、ソフトウエアとハードウエアの分離。

人を何を以ってその人とするか。
今の世界では、この身体によって自分が定義されている。
身体なんて、ただのイレモノなのに。
たしかに、私という存在を分離させることはできない。
まだそんな技術は確立されていない。
でも、ヒトという存在は、決してこの身体の中に閉じ込められるものじゃないと思う。

たとえ打ち明けても、こう言われたら嫌だ。
「でも結局、身体は男なんでしょ。」

それがどうしたの?って言っても、分かってくれない人はわかってくれないんだろうなぁ。
いや、私の学校の人々はわかってくれると思う。
でも、先生とか、保護者の人々とか、そういう人々は、分かってくれるのだろうか。

誤解されるのも嫌だ。
テレビに出ている、「オネェ」や「オカマ」や「ニューハーフ」とか、そういう人々と、同じように他人は考えることが多い。
別に、呼び方がどうこうとか言うわけではない。
認識自体が間違っているのに、それを正そうとしない人々。
いや、正せないんだよね。だって、分からないんだもの。
何度も言ってきたけれど、私は普通に女子として生きたいだけ。
もしかすると、比較的男っぽいかもしれないけれど、それでも私は私なんだ。
なんで証明不能すなわち偽になるの?
証明できないことを反省すべきなのではないの?
私の意識が女だって証明できないことはわかってる。
それ以前に、誰だってそう簡単に二分できるような単純なものじゃない、ヒトというのは。
確かに、恣意的に決めてしまうのは問題があるかもしれない。
でも、私は何か特別なことを望んでいるわけではないのに。

…うーん、何を言いたいのか伝わりにくいのかな。
言いたいことが多すぎて、難しい。
それに…自分でもよくわからない。

私がただのわがままなのかもしれない。
私が私になりたいって要求が呑まれないから、辛いと感じているのかもしれない。
でも、私はそうじゃないと思う。

誰だって、自分がいなかったら悲しいでしょ。
その想いが、ヒトが死を恐れることとつながっているのだと思う。
他の人がいるからこそ、その差を以って自分を定義できる。
でも、認識が間違っていたら?

 

でも結局、私が動くしかないんだ。
だって、僕が私じゃないと何もしないでも分かっているのは、私だけだから…。